じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

親知らずを抜いた日

 お昼から親しらずを抜きに歯医者へ。
 いくつになっても歯医者、とくに抜歯となると憂鬱なもので、今、ものすごく痛いというわけでもないのに、虫歯になっていて食べ物が詰まりやすいとはいえ、何十年も一緒に過ごしてきた体の一部を排除してしまっても良いのだろうか、いろいろとめんどうな歯ではあるが、なくなると寂しくなるな、なんて、前夜はちょっとセンチメンタルな気分になって、舌で何度もその存在を確認していた。

 さて、当日。
 実際に抜くとなると、そんな感傷は吹き飛んでしまったことよ。
 歯が曲がっていて抜きにくいらしく、口のなかで、バキッとかメリッとかいう音がして、振動が伝わってくるのは実につらい。しかも、なかなか抜けない。
 自分ではどうしようもない状況の僕の頭の中に流れてきたのは、次男が大好きな『ジューキーズ工事中』だった。『おかあさんといっしょ』でよく流れている、工事現場の重機の歌なのだが、「離れて応援してくれよ!」という部分で、「しかし、現場は僕の口の中なんですよ……」と泣きたくなる。早くこの工事、終わってくれ……
 結局、とりかかってから、根っこまで抜けるのに1時間くらい。
 心のなかで、「ようやくカブは、抜けました……」とつぶやく。
 早いときは5分でスッと抜けるんですけどね、ということだった。
 治療する側にとっても、これでギャラは5分で抜くのと同じなのだから、申し訳ないことをしたような気がする。
 痛みはそれほどなかったのだけれど、口のなかでメリメリと音がするのはキツイなやっぱり。麻酔なしで歯を抜く拷問、というのがあるらしいけど、僕は絶対に耐えられそうにない。それをやるぞ、というだけでギブアップだ。

 痛み止めと抗生剤を内服し、あとはおとなしく過ごすことにした。疼く、とはこういう感じか、と納得する状況は終日続いた。


 親しらずの無い人生、か……
 しかし、いまの60歳が90歳を介護しているのが当たり前の世の中を生きていると、親知らず、とか言われても実感がわかないよね。
 僕が抜いた親知らずも、親からもらったものではあったのだな、と鬼籍に入っている両親のことを思い出した。
 
 親知らず、反対側に、もう1本あるのだよなあ。


ジューキーズ こうじちゅう!

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