じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

日大の宮川選手の会見を観て、思ったこと

 暑かった、そして、久々にあまり慌ただしくない一日だった。
 
 日大の悪質タックル事件で、そのタックルを行った宮川選手が実名・顔出しで会見をしていて、午後、患者さんたちはみんなそれを観ていたようだ。


www.sankei.com


 日本代表にまで選ばれて、将来を嘱望されていたにもかかわらず、チームの首脳陣からは「やる気がない、代表を辞退しろ」と責められるというのは、ものすごくつらかったのではないかと思う。そういう立場であれば、アメフトは彼の人生のすべてに近いもので、試合に出られなくなったり、代表を辞退するくらいなら、なんでもやってしまうくらい追い詰められていたのはわかるような気がする。


「この日も実戦練習は外されました。練習後、コーチから『監督にお前をどうしたら試合に出せるか聞いたら、相手のクオーターバックを1プレー目で潰せば出してやるといわれた。クオーターバックを潰しに行くので、僕を使ってくださいと監督に言いに行け』と言われました」


 ニュースでこの会見をみていて、僕は正直困惑してしまった。
 有望な選手に、なんでこんなことをさせようとしたのだろう?
 これは「いじめ」「パワハラ」だとしか言いようがない。
 その一方で、宮川選手がそんな目にあわされる理由がよくわからないのだ。
 戦略としては、どうでもいい選手であれば、相手のエースにぶつけて「使い捨て」にするという手もあるはずだ(もちろん、そうするべきだとも、それが正しいとも思わないが)。
 でも、日本代表に選ばれるような選手に、暴力団の「鉄砲玉」「ヒットマン」みたいな汚れ仕事をさせるものだろうか?
 僕の勝手な推測なのだが、もしかしたら、日大の首脳陣は、宮川選手のメンタルを鍛えるつもりで、あえてそういう卑劣なプレーをやらせようとしたのかもしれない。
 昔の日本軍の一部で、新兵に「度胸だめし」として、中国で捕虜を「殺す」ことを強要していたように。
 そんなことで、メンタルが強くなるわけがない、いや、強くなるわけがない、と思いたい。
 だが、そういう解釈でもしないと、僕のなかでは説明がつかないのだ。


 それにしても、コーチの「監督はこういうふうに言っているから、お前のほうから、これをやります、と言いに行け」というやり口には、とめどなく怒りがわいてくる。
 そんなの暴力団のやり方じゃないか、「おつとめを果たしてきたら、組を持たせてやるから」と若い衆に「実行犯」を押しつける。
 お前たちが強要したのではないか、と問われても「いや、向こうから言いだしたことですから」としらばっくれることができる。
 コーチにとっては、いざとなったら、「監督の言葉を伝えただけだし、『潰せ』には、あんなことまでやれという意味はなかった」という逃げ道もある。
 卑怯すぎるだろ、これは。


 不幸中の幸いで、怪我をさせられた選手は少なくとも肉体的には後遺症が残るような状態ではないそうだし、宮川選手は、この事件を乗り越えて、本当の「強い生き方」をしてほしいと願っている。こんなの、麻原彰晃を信じてサリンをまいたり、ポアに参加させられたオウム信者と一緒じゃないか。でも、宮川選手はなんとか戻れるところで、踏みとどまることができたと僕は思う。一度信じたものに強要されて、どこまでのことをやってしまうのかというのはもう、運だとしか言いようがないのだけれども。
 もし、僕が同じ立場だったら、同じことをやっていた可能性が高いので、他人事とは思えないのだ。


 現実的では、どんなに正しい「告発」でも、それをずっと隠してきた組織の人たちからは、白眼視されることが少なくない。せっかくオレたちは、我慢して「伝統」を守ってきたのに、と。いろんなところで、陰口みたいなものを叩かれることもあるかもしれない。
 だからこそ、この会見をみていた人は、宮川選手を守ってあげてほしい。僕もずっと応援していくから。彼がこれから陰で嫌がらせをされるような世の中にしてはいけない。ネットは、人をバッシングし、炎上させるにも便利だけれども、「本当のこと」をずっと残しつづけるためにもきわめて有用な道具なのだから。


fujipon.hatenablog.com
※「不幸な読解力」どころか、結局、露骨に「指示」されていたわけですが……

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