じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

オジュウチョウサンの挑戦への、ある競馬ファンの複雑な感情

 豪雨から一夜明け、おそるおそる外をみてみると、水浸しにもなっておらず、一安心。昨日、渋滞のなか4時間運転していたため、帰ってきてすぐに寝たにもかかわらず、全身の筋肉がまだ固まっている感じがする。
 出勤してみると、昨日の帰宅状況は明暗が分かれてしまったようで、とくに問題なく家に帰れて、テレビを観てびっくりした、という人もいれば、電車が止まってしまって、結局病院に泊まった、という人もあり。今朝も通行止めで大変だった、という話も聞いた。僕の家の近くのバイパスも土砂崩れで通行止めになってしまい、おかげで幹線道路は昨日に続いての大渋滞。
 昨日に関しては「命を守る行動」という観点からは、あのまま病院に泊まる、というのが正解だったかもしれないなあ、とも思った。以前、雪のなか、アルバイト先から勤務先に戻ろうとして、スリップで怖い目にあって以来、車で無理をするのはやめることにしていたはずなのに。
 みんな、こういうときに「今回だけは、自分だけは」と、頑張って帰ろうとしてしまって事故に遭い、「あのとき、無理をしなければ……」と後悔するのだろう。
 でも、仕事でもないのに、病院には泊まりたくないよなあ。仕事でもイヤだけど。

 今日、福島競馬場の9レース、開成山特別(芝2600m、稍重)に、障害競走の絶対王者オジュウチョウサンが出走した。
 僕はオジュウチョウサンの障害レースでの強さをみてきて、このまま障害レースの王者として伝説をつくったまま引退してほしかった。
 今さら平地のレースを走って惨敗するようなことがあれば、「障害では強かった馬」というイメージが残ってしまいそうだし。

 オジュウチョウサンの平地競争出走を知って、NBAマイケル・ジョーダンが引退後野球選手に転向したときのことを思い出していたのだ。
 障害競走でも障害を跳ぶとき以外はコースを走っているのだから、それなりに平地でも走れる可能性はあるのだけれど(以前、テンジンショウグンという馬が障害レースから日経賞に出走してきて勝ったときには仰天した)、それでも、障害競走でのオジュウチョウサンの輝きに匹敵するのは、平地でキタサンブラック、あるいはそれ以上の成績をあげなければならないだろう。さすがにそれは無理だ。というか、心情的には応援しているのだが、武豊騎乗で圧倒的な人気になるようなら、他の出走馬の馬券がオイシイ配当になるのでは……などという色気も出てしまう。結局、馬券は買わなかったのだが。

 スマートフォンでレース結果を確認したら、オジュウチョウサンは3馬身差の圧勝だった。早め先頭で押しきる強い競馬で、今日の馬場状態も、直線が短い福島も、2600mという距離も、すべてが噛み合っていたのだろう。
 これで、人気投票で上位に入れば、有馬記念にも出走できるらしい。
 武豊騎手もこの馬のスタミナを活かす騎乗をしていたのだが、こうして注目される馬に平然と乗り続けている武豊という人は、やっぱりすごい。
 以前、武豊ハルウララという連敗続きで注目された馬にも乗っていたのを思い出す。
 良くも悪くも、世間に対して「武豊が乗ってダメならしょうがない」と納得させるという、ある意味「引導を渡す」ような役割も担っているのだから。
 武豊という人は、そういう、プレッシャーにさらされ、損になりやすい役割を競馬界の第一人者として引き受け続けている。

 正直言うと、僕は負けると思っていた。それも、惨敗すると予想していた。
 条件戦・500万下だからといって、そんなに甘いものではないだろう、と。


 終わってみれば、バスケットボールから野球に転向するよりは簡単なのかもしれないけどさ。オジュウチョウサンも平地のレースを走ったことはあったのだし。
 とりあえず平地でも走れることは証明したんだから、あとは年末の中山大障害に勝つか、どうしても平地で、というのなら、有馬記念に出て引退でも良いのではなかろうか。最高峰のレースなら、負けても「相手が強かったから」で済むのではないかと思うし。
 今のまま、「障害レースの絶対王者」では種牡馬になれない、あるいは、なれても交配相手が集まらない、というのもわかるのだけれど。


 本来、競馬というのは、こういう「無謀にみえる挑戦」こそ面白いはずなのだ。
 馬主や調教師からすれば、「中山大障害に出れば、勝って高額賞金を得られる可能性が高い」にもかかわらず、あえて困難なことをやろうとしているのだよなあ。
 にもかかわらず、僕はオジュウチョウサンの挑戦を、素直に応援できないのだ。障害というカテゴリーの王者であることにプライドを持ってキャリアを終えてほしかった。そして、この挑戦は、可能性に比べて、リスクが高すぎる、と考えてもいる。
 ただ、こちら側が「そんなのは無理だ」と思い込んでいるだけのことも、少なからずあるというのは、今年の安田記念を連闘で勝ったモズアスコットや宝塚記念で香港からの遠征+大幅体重減でも僅差の2着だったワーザーに思い知らされたばかりなんだよなあ。

 そういえば、七夕、だったのだな。


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