じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

博多座で、三谷文楽『其礼成心中(それなりしんじゅう)』を観てきた。

 なんとか諸方面に都合をつけて、博多座へ。
 三谷幸喜さん脚本の文楽「其礼成心中(それなりしんじゅう)」を観に行った。
 いきなり「三谷人形」が出てきて前説をはじめたことにニヤニヤしてしまったのだが、三谷さんの忙しさを考えると、こうして自分を前面に出してでも、文楽に興味を持ってもらおう、という気概が伝わってくる。
 僕は文楽を見るのは初めてで、この『其礼成心中』がどのくらい異端なのかはわからないのだけれど、少なくとも、これまでの文楽の「歴史と文脈」みたいなものを踏まえておかないと、うまく羽目を外せないだろうし。

 最初は、何を言っているのかわからないセリフや唄が続いて、「だいじょうぶかな……」と心配になったのだけれど、伝統を紹介しながらも、メインストーリーは現代語で進んでいくので、小学校高学年くらいなら理解できそうな感じだ。

 これを観ていて痛感したのは、「これが文楽の伝統なんだ」という考えにとらわれずに、脚本の面白さというか、「この先、どうなるの?」という興味を持てるようなストーリーだからこそ、楽しく観られる、ということだった。


 近松門左衛門の『曾根崎心中』が大評判となり、便乗したカップル(ちなみに、劇中でも「カップル」という言葉は普通に何度も出てきます)の「心中スポット」になってしまった曾根崎の饅頭屋夫婦。
 心中スポットでは饅頭は売れず、商売あがったりになった主人は心中しに来たカップルを説得して、なんとか曾根崎の平穏を守ろうとするのだが……


 「事実をもとにした脚本を書く大近松へクレームをつける人」という話も出てきて、三谷さんの姿と重ね合わせてしまうところもある。

 それにしても、文楽の人形の動きは本当にすごい。
 最初のほうは、「これ、人間が演じたら、こんなに大勢の人がいなくてもやれるのに」とか思っていたのだが、「人形がここまで人間のように動くものなのか!」という驚きと面白さこそが、文楽の魅力なのだな。
 いやほんと、人間の細かい動作が、人間が演じる以上に表現されていて驚かされた。
 主人公夫婦のお辞儀の角度まで、毎回ちゃんと妻のほうが少し深くお辞儀しているのだ。
 突然、ものすごく激しい動きを見せてくれて、驚かされることもあった。
 面白いなあ、文楽。人形は、自分で勝手に考えて演技をしてはくれないからこそ、すべてが動かす側の意図を反映しているわけだ。
 それは、つくる側にとっては、やりがいもあり、きついことでもあるのだろうな。

 観る前は、自分にわかるかどうか心配だったのだけれど、観てよかった。面白かったし、またひとつ、世界の秘密を明らかにしたような気がする。

 札幌記念、テレビではマカヒキが差し切ったように見えたのだけれど、サングレーザーがハナ差で勝利。2着マカヒキ、3着モズカッチャン。いかにも荒れそうなメンバーのときには、かえって人気通りに決まることがある。


三谷文楽「其礼成心中」[DVD] (PARCO劇場DVD)

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其礼成心中

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三谷幸喜のありふれた生活15 おいしい時間

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