じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

台風10号の被害が予想よりも少なかった理由

 朝起きて、外の状況を確認。
 仕事に行くのは到底無理な風雨を内心期待していたのだが、風は強いものの、これで「出勤できません!」とか言ったら、サボりだとみなされること確実なレベルの強めの風と小雨だった(出勤途中に雨がけっこう降ってきたけど)。昨日から今日は仕事休みだと決まっていた人が多かったらしく、道路はやたらと空いていて、ありがたいといえばありがたいが、なんとなく取り残されたような気分にはなる。まあ、本当に行けなかったら、なんとかして行かなくては、というプレッシャーにさらされるのも病院勤務というものなのだが。

 外来にも暴風のなか、ポツポツと患者さんが来ていた。便秘がつらいとか夜眠れない、というのは、台風が去ってから来院してもよさそうに思うのだが、物事の優先順位というのは人ぞれぞれではあるし、病院を開けているのだから、文句を言う筋合いでもあるまい。ずっと昔、日本がはじめてワールドカップに出場した緒戦のアルゼンチン戦で、もうすぐ試合がはじまる、という瞬間に夜間外来に便秘の人で呼ばれたときのことを思い出す。そういえば、ものすごい台風の日に健康診断に来た人がいて、「自分が漁師なので、こういう日のほうが都合をつけやすい」と言っていた。人それぞれ、なんだよな。
 ただ、その人それぞれが集積していくと、一睡もできない当直医が生産されるのも事実だ。
 昔、ある事件で被害を出した会社の社長が「私は寝てないんだっ!」とキレたのがメディアで大々的に流されてバッシングされたが、「どんなに疲れ果てていても、クレームばかりを聞かされて、眠らせてもらえない」というのは地獄だし、まともな精神状態じゃなくなるのもわかる。面白がって叩いていた人たちは「眠らせてさえもらえない状況」を知らないのだろうな。

 軒並み店が閉まっているなか帰宅。途中で寄ったコンビニも弁当やデザートのコーナーがほぼ空っぽで驚いた。食べるものがない、と一瞬思ったのだが、冷凍食品はたくさんあるし、カップ麺やパックご飯に納豆やレトルトカレーもある。いつでも、なんでもある状況に、慣れ過ぎているのかもしれない。

 テレビのニュースで、今回の台風10号は、福岡県内では、懸念されていたほどの被害が出ていない、とアナウンサーが言っていた。前に台風9号が通りすぎていった影響で、海水温が変化し、台風の「燃料」みたいなものが補給できなくなって、勢力が落ちたのだそうだ。
 その話のなかで、解説の人が「今回の台風10号に関しては、今年の新型コロナウイルスへの感染対策の経験によって、みんなが『外出自粛』に慣れていて、しっかり家に籠もって危険を避けることができていたのも大きかったのではないか」と言っていた。
 新型コロナという未曽有の危機も、長い目でみれば、人類全体にとっての「貴重な経験」であり、これからの「危機の際の適切な行動」につながっていくのかもしれないな。人間というのは、けっこう「学んでいく」生きもので、転んでもタダでは起きない、と、少しだけ心強くなった。