じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

2020年のプロ野球日本シリーズと、中学生だった僕が「ジャイアントキリング」を成し遂げたときの話


 土曜日の午前中の外来は、半日である、というありがたさはあるのだが、そう思うと、その半日がけっこう長く感じることも多い。相変わらずインフルエンザの予防接種が多く、同じような問診をずっとやっていると、なんだか気が滅入る。いや、だからといって、重症の患者さんが次々と現れるような展開は困るのだが。この業界で四半世紀、なんとかしがみついてやってきた経験上からは、軽症の患者さん5人(あるいは10人)よりも、重症1人のほうが、ずっとプレッシャーも仕事量も大きくなるのだ。実際は、軽症者が重症者になったり、軽症だったはずの人が、いきなり病院からいなくなったりする、というイレギュラーな状況もあり、油断はできない。
 いつのまにか、日本シリーズが開幕していた。
 巨人・菅野対ソフトバンク・千賀。初戦ではあるけれど、巨人は菅野で負けたら、もう後がない感じ。
 でも、勝負事というのは、こういう「ソフトバンクが圧倒的有利」とみんなが思い込んでいる状況ほど、番狂わせが起こりやすい、とも思っていた。勝って当たり前、とみなされていると、油断も生じてくるし、プレッシャーにもなる。

 中学生の頃、剣道の授業で、剣道部の強い選手と対戦したことがある。名うての強豪対、運動音痴でクラス中に知られた僕。勝つか負けるか、ではなく、どう負けるか、という試合だった。
 ところが、直前に体育の先生から習った「こて」が、「始め!」の合図と当時に、見事に決まってしまったのだ。「スパーーン!」という「かいしんのいちげき」の音。「えっ?」と僕も驚いた。自分のアドバイスがいきなり奏功し、嬉しそうに旗を上げる先生、あと2人の同級生の審判は、「え、これ、決まってますよね……上げていいんですよね……」と、先生の顔色をうかがうように、そろそろと僕の旗を上げた。
 まさに、ジャイアントキリング!ではあった。3本勝負で、残りの2本は、本気になった相手に手も足も出なかったのだが、試合終了後、体育館が、同級生たちのどよめきと大きな拍手に包まれたのを今でも覚えている。男子中学生は、体育の授業中に、本気で拍手なんてしないものなのに。
 あのときは、みんな「正規の大番狂わせ」を観て、興奮していたのかもしれない。
 あれ以来、僕はずっと「勝負事というのは、やってみないとわからない」と思っている。
 しかし、こういう記憶って、僕が死んだら、この世界から消えてしまうものなのだよなあ。これまでも、世界中で、いろいろな人が、「自分だけの忘れられない記憶」とともに去っていったのだ。

 と、長々と思いついた話を書いてしまったが、第1戦、ソフトバンクは、危なげなく巨人に勝った。
 菅野でも、ダメだった。
 大番狂わせは、めったに起こらないからこそ、大番狂わせなのだ。
 野球というのは、短期決戦というのは、番狂わせが起こりやすい競技ではあるし、あの「巨人はロッテより弱い」発言のあと、巨人が4連勝したときのことを思うと、「これはもう決まったな」というムードのときにこそ、潮目は変わる可能性はあるけれど。