じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

古葉監督から鈴木誠也選手まで。2021年11月16日は、広島カープのこの半世紀を凝縮したような一日だった。

 お昼過ぎに、カープ鈴木誠也選手のメジャー移籍のためのポスティングを球団が容認、という速報が出た。
 カープファンとして、驚きはない、というか、来るべきものが来た、という感じで、むしろ淡々と受け止めている。
 巨人に無償トレード、とかだったら、さすがに衝撃を受けたかもしれないが、もう鈴木誠也カープの経営規模では十分な年俸を払えない選手になってきているし、成績はすごかったけれど、本人のカープでのモチベーションも下がっているように見えた。
 前田健太投手もカープでの最後の年、登板した試合中に絵を描いているのをみて、そして、周りがそれを認めているのをみて、「ああ、これはもうここにいることに飽きたのだな」と思ったのだけれど、今年の鈴木誠也選手が、ヤクルト・村上選手の記録達成を試合中にベンチから拍手しているのにも、同じことを感じたのだ。いくら日本代表でも一緒にやってきた友達だからといって、試合中に、自分のチームの投手が打たれたのに、あからさまに祝福するというのは、僕にはすごく違和感があった。祝福するな、とは言わない。でも、試合が終わってから言葉をかけるか、LINEでもしろよ。
 たぶん、鈴木誠也という選手は、常に新しいことに挑戦していないと、モチベーションが保てないタイプなんだろうな。
 27歳で、あと10年、同じように日本でプレーし続けることを想像すると、つらかったのかもしれない。
 それも、わかるような気はするのだ。

 長年カープファンをやっていると、巨人とか阪神じゃなくて、メジャーリーグという選択肢ができてよかったな、とも思うのだ。
 年俸にしても世界からの注目度にしても、スケールが違い過ぎるから、破格の選手はみんなメジャーに行くようになり、FAでの国内球団の格差はかえって小さくなった感もある。名前も忘れたあの人と誠也の3番、4番コンビが巨人で復活、なんて、あまりにも悲しいし。

 お金がない球団でも、「うちで活躍したら、メジャーリーグにポスティングしてあげるから」ということで、ドラフトで選手を積極的に指名しやすくなったはず。

 鈴木誠也に関しては、いろんな意味で、こういう形での今年の「卒業」が、お互いにとって、角が立たず、今後も良い関係でいられるベストな選択だったように思う。まあ、カープファンとしては、誠也がいるうちに一度は日本一になっておきたかった、というのと、満員のマツダスタジアムでの「壮行試合」で送り出したかった、という無念さはあるけれど。

 鈴木誠也がドラフトで2位指名され、広島にやってきたとき、お父さんから「お前は広島の人になれ」と言われたそうだ。
 そして、あまりにも活躍しすぎたがために、つねに「いつ出ていくのだろう?」と疑心暗鬼になっていたカープファンに、誠也はつねに「自分はカープを、広島を愛している」というメッセージを発し続けなければならなかった。
 それはそれで、けっこうめんどくさかったのではなかろうか。本当にお疲れ様でした。そしてありがとう。

 個人的には、2016年のリーグ優勝の年、交流戦で3試合連続で試合を決めるホームランを打ったシーンや、劣勢の試合で、名前も口にしたくないあの人の同点ホームランのあと、サヨナラホームランを放った試合がすごく印象に残っている。あと、ヒーローインタビューで黒田さんに水をかけようとして、ひと睨みされ、自分で水をかぶったのも。あのときの黒田さんは、本当に楽しそうに笑っていた。
 あの3連覇のときのカープは、歴史に残る、素晴らしいチームだった。それと同時に、勝つということ、勝ち続けるということは、消耗していくこと、いろんなものを犠牲にしていくものなのだと思い知らされた。

 カープファンとしてはしんみりしてしまうけれど、誠也にとってはこれは「新しいスタート」であり、感傷よりも新たな挑戦への意欲のほうがずっと強いはず。
 なんだか、自分の子どもの卒業式に出席したときみたいな気分に、僕のほうが勝手になってしまった。

 その直後に、古葉竹識元監督の訃報を知った。
 僕が子どもの頃、強かったカープのベンチにはずっと古葉さんがいて、いつも壁で半分身体が隠れた状態でテレビに映っていた。
 温厚そうな人だったけれど、のちに、実際はかなり厳しい指導をすることもあったと聞いた。
 古葉さんのもとで、カープははじめてリーグ優勝を成し遂げ、日本一にもなった。優勝パレードのとき、沿道に遺影を掲げた人がたくさん並んでいた、なんていうチームは、もう、これからは出てこないだろう。出ないほうがいいのかもしれないけれど。
 
 古葉監督から鈴木誠也選手まで。
 2021年11月16日は、広島カープのこの半世紀を凝縮したような一日だった。
 長年のカープファンとして、名将・古葉監督のご冥福を謹んでお祈りいたします。
 そして、鈴木誠也メジャーリーグで、また楽しそうに野球をやっている姿を見せてくれることを楽しみにしています。


【読書感想】止めたバットでツーベース ☆☆☆☆ - 琥珀色の戯言