じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

『ゲームの歴史』の回収・絶版と「歴史や記憶を語ること」の難しさ

 4月から人が増えて、スケジュールが変更され、平日休み後の早番が無くなった。この年齢になっても早起きは苦手なので大変ありがたい。絶対に早起きしなくてはいけない曜日が休みの翌日というのは、けっこうプレッシャーだったのだ。
 全体的に仕事も余裕ができてありがたいのだが、このまま仕事がなくなっていって、居場所を失うかも、と少し怖くもなっている。


www.gamebusiness.jp


 岩崎夏海さんと稲田豊史さん共著の『ゲームの歴史』という本は、岩崎さんの思い込みが史実のように書かれているところがたくさんあり、関係者から「これを『ゲームの歴史』として出すのはひどい」という批判の声が上がっていて、ネットでは大炎上していた。
 結局、販売中止になるとのこと。
 僕も書店で少し読んでみたのだが、「私のゲーム史」としか言いようがなくて、なぜこれを「正史」のような扱いで、しかも3冊も出そうと思ったのか甚だ疑問になった。
 とはいえ、百田尚樹さんの日本史の本は批判されまくっているものの、販売は続けられているし、本当に正しいことだけが書かれている「歴史に関する本」なんて無いのだろうとも思う。本能寺の変の真相とか、元寇で、元の軍勢が撤退した理由とか、いろんな人がいろんなことを書いているものなあ。
 「ゲームの歴史」というと、まだ存命であったり、活躍していたりする関係者も多いので間違いが指摘されやすいのだが、人間の記憶というのはけっこう曖昧なものだし、当事者もインタビューなどで思いつきやウケ狙いなどで、同じ質問に違う答えをしている例もけっこうあるのだ。

 『ファイナルファンタジー』が、なぜ『ファイナル』だったのか?
fujipon.hatenablog.com

 坂口博信さんへのインタビューだったので、これが「正解」だと思っていたのだが、2015年の「国際日本ゲーム研究カンファレンス」で、当の坂口さんが「FF(エフエフ)」という、アルファベットで表記できる、かつ4音で発音できる略称で呼べることを前提に名づけていて、Fで始まる単語ならなんでもよかった」と発言している。

www.famitsu.com

 昔のインタビューでは、本人がウケ狙いで言った、ということなのか、記憶がいつの間にか書き換えられてしまったのか。
 
 僕の記憶のなかでも、ひどいことを言われた記憶があるのに、相手に「そんなこと言ってない!」と否定されることは少なからずあって、相手が忘れてしまったのか、気まずいからなかったことにしたいのか、僕の記憶が間違っているのか、よくわからなくなってしまうことはあるからなあ。
 言われたほうはずっと忘れられないひどい言葉でも、言ったほうはふと口から出ただけで覚えていない、なんていうこともあるだろうし。

 『ゲームの歴史』が、歴史書としてはあまりにも杜撰で、正しいとは言えない歴史の解釈を広めるおそれがあるのは事実だ。
 ゲームについての与太話、思い出話ではなく「正史」的な売り方をしていたのにも問題がある。
 ただ、内容だけではなく、著者への不信感や嫌悪感が、ここまでの大バッシングになった原因のひとつではないか、と思えて、少しモヤモヤするところはある。
 嘘ばかりの本はあるけれど、本当のことだけが書いてある本というのは、たぶん、存在しない。


fujipon.hatenadiary.com