じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

WBC決勝。今日は、生きていて、ちょっと得したな、と思う日になった。


 WBC決勝。昨日のメキシコとの準決勝は、あまりにもドラマチックな試合だった。
 3ランを打たれて3点ビハインド、相手のピッチャーの調子も良さそう。吉田選手のホームランで追いつき、これはイケる!と思ったらすぐに突き放される、というキツい展開だったが、9回の大谷のツーベースで、空気がガラッと変わったのが僕にもわかった。しかし、あの場面で1塁ランナーの吉田に代走・周東を起用し、村上にバントをさせずに打たせた栗山監督の采配は見事だった。僕は「もし、これで同点で終わったら、吉田選手も岡本選手もいない打線だと厳しくなるんじゃないか?」と思ったのだ。メキシコの先発投手が素晴らしすぎて、リリーフ陣はやや打ちやすそうだったのも事実だけれど、あの場面できっちり決めたのは本当にすごかった。その一方で、もうこれでお腹いっぱいというか、全力を尽くした翌日に、地元アメリカとの決勝戦というのは、あっさりやられてもおかしくないかも、という気もしていた。

 今回のWBCの日本代表を見ていて少し不安だったのは、あまりにも強い勝ち方ばかりで、厳しい場面がほとんどなかったことだったので、これで禊は済んだのかもしれない。これまで日本は2回WBCで優勝したのだが、いずれも崖っぷちまで追い込まれて、他力本願でなんとか次のステージに進出したり、韓国代表に予選で敗れたりしていたから。僕の感覚として、うまくいきすぎているときは、かえって危ないというか、ちょっとしたつまづきが致命的になるものだ。このメキシコ戦で大苦戦したことで、優勝のフラグが立った(と思いたい)。

 とはいえ、外来日だったので肝心の試合はリアルタイムで観ることができず、外来のロビーからときどき聞こえてくる歓声やため息を気にしながら、時々こっそりスマートフォンで途中経過をチェックしていた。
 最後、ロビーからひときわ大きな歓声が上がり、拍手が沸いた。
 ああ、勝ったんだ。

 後で、大谷が9回にマウンドに上がったことを知った。最後のバッターは、マイク・トラウト。フルカウントから、空振り三振。
 マンガかよ、これ。出来すぎだろ。スポーツというのは残酷なところがあって、観客が熱戦を期待しているとワンサイドゲームになったり、優勝候補やスーパースターがあっさり負けたりするものだ。こんなに完璧な準決勝、決勝があるのか。大谷選手が投げたのを知って、田中将大選手が、楽天が日本一になった年の日本シリーズの最後の試合で投げたことを思い出した。その人に相応しい舞台が作られてしまうのが、スーパースターというものなのだろうな。
 日頃、野球には興味がないと言っている長男もWBCには夢中になっていたし、回診をしていたら、もうかなり恒例の患者さんが「今まで私は野球に全く興味がなかったけれど、このWBCで野球にハマってしまって」と興奮しながら話してくれた。

 50年以上生きてきたけれど、今日は、生きていて、ちょっと得したな、と思う日になった。
 その後急患やら急変やらで疲れ果てて家路についたが、「まあ、今日は日本がWBCで優勝したしな」と、気分が底上げされていた。
 明日になったら、多分もう、普通の日常が始まるし、そもそも、代表チームが優勝したからといって僕に気分以外のメリットはないのだけれど、それでも、これだけ多くの人を、1日だけでも幸せにできる魔法というのは、素晴らしいものだ。年を重ねてきたからこそ、そう思えるようになった気がする。

 夜、IPO(新規公開株式)の抽選結果を確認していたら、欲しかった「カバー」がauカブコム証券で当選していた。これまで、当選本数が多い証券会社で、ことごとくかすりもせず落選だったのに、最後の最後に、薄いところで当たりを引いてくれた。生きていれば、たまにはいいこともあるみたいだ。


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