じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

SNSは、ひと回りして、「仲間内で盛り上がるためなら、第三者がみて不快になることの表明をためらわない」人が増えてきたように感じる。

 今日からもう11月。
 年を取ると1年経つのが早くなる、と子供の頃に母親が言っていたのを思い出す。 
 もはや同じような仕事を毎日こなし、税金と請求書を処理するために生き、貯金もそんなにできなければ、お金の使い道も思いつかない人生。
 
 カープがドラフト5位で指名した大阪ガスの河野投手が、プロ入りを迷っている、拒否するかもしれない、理由は「指名順位が低かったので、もっと上で指名してもらえるように、という思いもある」とのこと。ドラフト直後は、黒田投手みたいになりたい、という前向きなコメントもあったのに。会社側からも、まだ若いのだから、こんな評価なら会社に残って次の社会人の大会で活躍してほしい、という要請があったのかもしれない。
 個人的には、チャンスとか縁とかいうものは、後から考えたら前髪しかなかった、ということが多いから、覚悟を決めてプロで「あの選手があんな低い順位で指名できたのか!」と他球団を後悔させるような活躍をしてほしいのだが、まあそれも僕がカープファンだから、なのかもしれないな。ネットを見ていると「ドラフトの順位で入団後の扱いが違うのは事実」とか「来年上位指名されれば、契約金が増すから生涯賃金ではプラスになる」とかいうコメントがけっこうあるし、「プロ野球選手になるにはリスクがあるから、社会人のままというのも選択肢」という人もいる。

 まあ、リスクがあることを他人に薦めるのは難しいのもわかるけれど、結局のところ、人生は一度で有限、セーブポイントもないのだから、どんな結果に終わるにせよ、どうしてもやりたいことがあれば、やって後悔したことよりも、やらずに後悔し続けることの方が、ずっと多いし、重い、というのが僕の現在の見解だ。ただ、これは本当に難しい問題で、例えば、「医者にどうしてもなりたい。医者になることが目標」というのならば、どこの医学部でもとりあえず受かれば早く行った方がいいだろう。しかしながら、研究者として名を成したいとか、有名大学の教授になりたい、というのが目標であれば、「医学部ならどこでもいい」というわけにはいくまい。もっとも、そうやって大学でキャリアを重ねて偉くなるような生き方は、今は流行らないし旨味もなさそうだが。それでも、もう老害になってしまった僕からすれば、ネットで若い医者たちが、「患者さんや仕事よりも自分のQOLや資産形成!」みたいなことを呟いて「いいね!」を集めているのをみると、「そういうのは紙の日記か友達同士の飲み会でやっとけばいいのに」と思う。実際は、そういうのばかりが目立っているだけなのかもしれないが。

 顧客を不安にさせたり、職業倫理に疑念を抱かせるようなことを、誰が見ているかわからないステージ(インターネット)で声高に叫ばれるのは、同業者として少なくとも好感は持てない。現状、医療にはそれなりに現実を知ってもらうのとともに、「建前」が必要だし、それで医療従事者も患者も救われているところがある。ひどいクレーマーも認める、というわけではないけれど。

 インターネット(SNS)は、ひと回りして、「仲間内(フォロワー)で盛り上がるためなら、第三者がみて不快になることの表明をためらわない」人が増えてきたように感じる。パソコン通信の時代じゃねえんだぞ、と思うのだが、「バカッター」で人生詰んだ若者たちが反面教師になって「ネットでの発言には気をつけましょう」とみんなが注意するようになったのが2010年代なら、そのおかげで個人の炎上が減って炎上リスクが実感しにくくなり、「このくらいなら大丈夫なんじゃね?」「どうせ自分のフォロワーしか見てないし」「過激なことやらないと見向きもしてもらえないし」と、かえって「過激化」しているのが2020年代のように思う。

 他人に嫌われる、妬まれる、疎まれるということは、本当に怖い。「たかがそれくらいのこと」が理由でも、人は殴られれば痛いし、刺されれば死ぬ。


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