じっぽ当直日誌・スーパーマイルド@はてな

『さるさる日記』から続く、中年内科医の日常日記。これまでの分はこちら。http://touchoku.jugem.jp

王将戦第2局、羽生善治さんとエンニオ・モリコーネのこと


 予定が急にキャンセルになったのだが、突然時間ができると、やりたかったことはたくさんあるはずなのに、YouTubeとかNetflixをザッピングして過ごしてしまうことが多い。それもさすがに虚しい気がしてきたので、夕方から『モリコーネ 映画が恋した音楽家』を観に行った。一日一回の上映で、仕事帰りでは間に合わない時間なので。
 ドキュメンタリー映画だということは知っていたのだが、映画音楽の巨匠、エンニオ・モリコーネが自作を時系列で語っていく、という内容で、最初は知らない作品ばかりだな、と困惑していたのだが、音楽学校で現代音楽の技法を学んだモリコーネが、歌謡曲や映画音楽に、それまでの予定調和にとらわれない新しい音楽や音色を採り入れていったことがわかる内容だった。アートの世界というのは、才能とかセンスが重要だと思いがちなのだが、多くの作家はこれまで積み上げられてきたそのジャンルの歴史を学び、それを踏まえた上で、新しいアプローチを試みているのだ。映画音楽の巨匠ともてはやされながら、エンターテインメントの音楽家であることにずっとコンプレックスがあった、というのも意外だった。だからこそ、映画のそれぞれの場面を論理的にみて、感傷的になりすぎない曲を書くことができたのかもしれない。

 王将戦第2局、途中から羽生九段やや優勢、というのをネットでみて、半ば祈るような気持ちで経過を追っていた。
 最後、藤井王将の連続王手もミスなく捌いて、羽生さんの勝ちで1勝1敗のタイに。
 これで、両者の対戦成績は羽生さん側からは2勝8敗になるらしい。
 第1局で藤井王将が勝ったことで、これはもしかして、藤井さんがストレートで勝ってしまうのでは……と、今回は羽生さんを応援せずにはいられない僕も心配していたのだが、やっぱり羽生さんは強かった。藤井王将は所持タイトルが多く、相手の研究に避ける時間がいまの羽生さんよりは少ないことや、今回は羽生さんが先手番だったことも大きいのかもしれない(将棋はプロレベルでは、先手番が少しだけ有利とされている)。
 感想戦の映像をみると、周りが騒いでいるよりもずっと、この注目されている「世紀の対局」で、強敵と棋譜をつくるのを本人たちは楽しんでいるようにもみえる。
 個人的には、どっちが勝ってもいいから、毎週やってくれないかなあ、とも思うくらいだし、結果はどうあれ、この王将戦で、羽生さんは「すごい棋譜を残す」ことへのモチベーションを取り戻したのではなかろうか。
 まあでも、ネットをみていると、「AIが示した『最善手』を羽生さんは指すことができるか?」みたいな解説がリアルタイムでされていて、なんだかせつない感じもした。
 その一方で、評価値がつねに表示されている将棋中継は、観客にとっては「わかりやすい」のも事実なのだよなあ。
 そういえば、モリコーネもチェスが好きで、映画のなかで、自らの音楽づくりについて「とにかく考えることが大事」だと言っていた。


fujipon.hatenablog.com